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法改正 2020/08/01

改正年金法が成立・公布されました

2020年5月29日、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立し、6月5日に公布されました。
この法律は、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる中で、今後の社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るためのものです。
今回は、この改正のうち、国民年金・厚生年金について解説します。
 

1.被用者保険の適用拡大

(1)短時間労働者を被用者保険の適用対象とする事業所の企業規模要件の段階的な引下げ(現行500人超⇒2022年10月から100人超⇒2024年10月から50人超)
 

短時間労働者の被用者保険の適用については、2016年10月から以下の5つの要件をすべて満たす場合に適用が拡大されました。

<2016年10月~>

  • 週の所定労働時間が20時間以上あること
  • 雇用期間が1年以上見込まれること
  • 賃金の月額が8.8万円以上であること
  • 学生でないこと
  • 500人超の企業
2017年4月からは、労使の合意があれば常時500人以下の企業でも、上記の要件を満たせば適用可能となりました。

今回の改正では、現行の「500人超」という企業規模要件が、2022年10月から「100人超」に、2024年から「50人超」となります。
企業規模要件の従業員数は、週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上の人数を算定し、それ未満のパート労働者は含みません。
また、月ごとに従業員数をカウントし、直近12ヶ月のうち6ヶ月で基準を上回ったら適用対象となります。(※一度適用対象となれば、従業員数が基準を下回っても引き続き適用。ただし被保険者の3/4の同意で対象外となることができます。)
なお、法人なら同一の法人番号を有する全事業所単位、個人事業主なら個々の事業所単位で従業員数を算定します。

適用が拡大となる50人超・100人超規模の企業は、適用対象となる短時間労働者の現状を把握しましょう。適用対象がどれぐらいの人数になるのか、負担する社会保険料額はどの程度増額になるのか確認し、また、適用対象となる労働者に対しては、今後の働き方について意向の確認が必要となります。
一方、これまで社会保険の適用の問題で、短時間でしか働けなかった従業員が、労働時間の延長を希望する場合もあるかもしれません。
改正に向けて、従業員の雇用状況の見直しが必要となりますので、早めにとりかかりましょう。

(2)短時間労働者の勤務期間要件の短縮(現行1年以上⇒2カ月超)【施行】2022年10月1日
 

短時間労働者の被用者保険の適用要件は前述のとおりですが、2022年10月1日より「雇用期間が1年以上見込まれること」という勤務期間要件が、フルタイムの被保険者と同様に「2ヶ月超」と改正されます。
 

(3)法律・会計を取り扱う士業の個人事業所を適用業種に追加【施行:2022年10月1日】
 

2022年10月1日より、法律・会計を取り扱う士業の個人事業所が適用業種に追加されます。
弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業については、他の業種と比べても法人割合が著しく低いこと、社会保険の事務能力等の面からの支障はないと考えられることなどから、適用業種に追加されます。
 

在職中の年金受給の在り方の見直し


(1)在職定時改定の導入【施行:2022年4月1日】
 

現在、老齢厚生年金の受給権を取得した後に就労した場合は、資格喪失時(退職時・70歳到達時)に、受給権取得後の被保険者であった期間を加えて、老齢厚生年金の額を改定しています。
本改正によって、2022年4月より、65歳以上の者については、在職中であっても、年金額の改定を提示に行うこととなります(毎年1回、10月分から)。
就労を継続したことの効果を退職を待たずに早期に年金額を反映することで、年金を受給しながら働く在職受給権者の経営基盤の充実を図る目的です。

(2)60~64歳の在職老齢年金制度の支給停止基準額の引上げ(現行28万円⇒47万円)【施行:2022年4月1日】
 

在職老齢年金制度とは、就労し、賃金と年金の合計額が一定以上になる60歳以上の老齢厚生年金受給者を対象として、全部または一部の年金支給を停止する仕組みのことです。
現在、支給停止基準額は、60~64歳の場合が28万円、65歳以上の場合が47万円と2種類あります。
今回の改正では、支給停止基準額が47万円に統一されます。施行日は、2022年4月1日です。

これまで、60歳~64歳の在職老齢年金制度は、就労を抑止する影響が一定程度確認されており、また、定年を迎えた後の再雇用の賃金を検討する際には、在職老齢年金の支給停止基準額である28万円以内に抑える方向で決定することが一般的でした。
今回の改正で、支給停止基準額が47万円に統一されることで、支給停止基準額にかからないように働いていた高齢労働者も賃金増額を行うことができるようになるので、労働時間の延長や労働日数の増加を検討するこも可能となります。
 

(3)年金の受給開始時期の選択肢の拡大(現行60~70歳⇒60歳~75歳)【施行:2022年4月1日】
 

現在、公的年金の受給開始時期は、原則、個人が60歳から70歳の間で事由に選ぶことができます。今回の改正では、その選択肢が60歳から75歳までに拡大されます。
それに合わせ、受給開始額は下のとおりとなります。

  • 65歳より早く受給開始した場合(繰上げ受給) ⇒ 年金額は減額(1月あたり-0.5%、最大-30% ※今後1月あたり-0.4%、最大-24%)
  • 65歳より後に受給開始した場合(繰下げ受給) ⇒ 年金額は増額(1月あたり+0.7%、最大42% ※今後1月あたり+0.7%、最大+84%
また、70歳以降に請求する場合の5年前時点での繰下げ制度が新設されます(2023年4月施行)。70歳以降80歳未満の間に請求し、かつ請求時点における繰下げ受給を選択しない場合、年金額の算定に当たっ ては、5年前に繰下げ申出があったものとして年金が支給されます。(繰下げ上限年齢を70歳から75歳に引き上げることに伴い、5年以上前の時効消滅した給付分に対応する繰下げ増額)
 

2ヶ月以上の雇用が見込まれる者の被用者保険の早期加入措置【施行:2022年10月1日)


現在、雇用契約の期間について「2ヶ月以内の期間を定めて使用される者」(引き続き使用されるに至った場合を除く)は適用除外となります。
2か月以内の雇用契約であっても、これを継続反復しているような場合には、「引き続き使用されるに至った場合」として、 被用者保険の対象としているが、最初の雇用契約の期間は適用の対象となっていないません。
今回の改正では、雇用契約の期間が2か月以内であっても、実態としてその雇用契約の期間を超えて使用される見込みがあると判断できる場合は、最初の雇用期間を含めて、当初から被用者保険の適用対象となります。
雇用の実態に即した被 用者保険の適切な適用を図る観点からの見直しで、2022年10月に施行されます。

<雇用期間が2ヶ月以内の場合に、当初から被用者保険の適用となる場合>

①就業規則、雇用契約書等において、その契約が「更新される旨」、または「更新される場合がある旨」が明示されている場合
②同一の事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されている者が更新等により最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある場合

※ただし、①②いずれかに該当するときであっても、労使双方により、最初の雇用契約の期間を超えて雇用しないことに合意している場合は、雇用契約の期間を超えることが見込まれないこととして取り扱うとしています。
 



被用者保険の適用の関係から、当初の契約期間を2ヶ月としている企業もあるかと思いますが、明確に2ヶ月以内の雇用契約と断言できない場合は、当初から被用者保険の適用となります。ご注意ください。
 

脱退一時金の支給上限年数の引上げ(3年⇒5年)【施行:2021年4月1日】


脱退一時金制度は、短期滞在の外国人の場合には保険料納付が老齢給付に結び付きにくいことがあるという問題について、社会保障協定が締結されるまでの当分の間の暫定的・特例的措置として1994年改正により設置されました。
単記滞在の外国人に対して、被保険者であった期間に応じて支給され、現行制度ではその支給上限は3年(36ヶ月)となっていますが、今回の改正により5年(60ヶ月)に引上げとなります。
 


実務上、重要な改正も多くあります。事前に現状を確認の上、進めていくことが必要です。

【参考】厚生労働省HP「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00006.html

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